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Posted by サンマヤ - 2012.12.14,Fri
年末も押し迫り、いよいよ受験シーズンが近づいてきました。

高校受験というのは、ほとんどの人が通過するイベントです。
最近は推薦入試というのがあって試験を受けずに入試ができるところもありますが、
その是非はここ数年毎回議論の俎上に挙げられており、
その廃止も含めた検討が行われています。

滞りがちなブログのネタとして、
これから首都圏、とくに都立の入試動向について考えていきたいと思います。

自分の専門からいって、理科と数学を題材にすることが多いと思います。
第1回の今回も、理科について取り上げたいと思います。

なお、入試問題および平均点・正答率などのデータは、すべて
東京都教育委員会
のページで閲覧可能な範囲で行っています。



まずは、ここ7年間の全科目の平均点を以下に挙げる。

年度 国語 数学 英語 社会 理科
24 69.5 57.2 58.1 57.7 51.4
23 65.9 59.8 58.9 58.6 55.2
22 60.9 55.6 49.9 53.2 66.9
21 69.0 47.3 54.2 62.3 59.5
20 63.8 58.8 50.8 60.6 61.8
19 65.2 56.4 56.0 62.3 55.8
18 55.7 52.6 59.9 72.6 60.5
平均 64.3 55.4 55.4 61.0 58.7

多少の上下があるものの、数英理の平均点は低い。
とくに自校作成(上位の高校が都立共通でなく独自に作成した問題)を採用している高校でも、
理科と社会については共通問題を採用していることと、
国数英の3科目受験の高校があることを考慮すれば、
理科と社会の平均点は他の3科目と比べて高くなるはずであるが、
実際はそうなっていないことから見ても、理科の得点は低い傾向にあると見ていいだろう。

データをもっと見ると英語もけっこう面白い傾向があるのだが、
今回は理科に着目して掘り下げてみよう。

まずは、理科の問題構成を解説しておこう。
都立入試問題の理科は例年大問6個の構成になっている。

大問 配点
1:小問集合 24
2:新傾向 16
3:地学 15
4:生物 15
5:化学 15
6:物理 15
合計 100

小問集合は、各分野から出題され、4択問題となっている。
「新傾向」というのはいわゆる暗記ではなく、資料などから読み解くことを主題とした問題のこと。
「新傾向」への対策は別の回で触れるつもりだ。
ここまでで40点の配点があり、すべて選択問題になっている。(1個4点で10問)
残りの4問は、物化生地の4分野からそれぞれ1問ずつの出題で、
計算や記述が含まれる場合もあり、小問3つ(各5点)ずつで構成されている。

東京都は標本調査によって各問題の「正答率」も毎年公表している。
ここでは過去6年分のデータをざっと見てみよう。

まずは小問集合の出題内容と正答率を表にしてみた。
正答率50%に満たないものを水色にした。

大問1 問1 正答率 問2 正答率 問3 正答率 問4 正答率 問5 正答率 問6 正答率
24 天気 67.2 電気 37.9 人体 53.3 気体 61.4 地層 48.7 光学 30.8
23 葉の構造 62.7 電気分解 43.9 力のつり合い 37.3 溶解度 73.9 金星 55.7 動物の分類 72.1
22 化石 61.8 弦の振動 78.2 植物の分類 84.1 測定器具 84.8 地震 78.1 屈折の法則 59.6
21 岩石 52.7 状態変化 84.4 植物の分類 60.5 蒸留 84.0 生殖 58.6 力学的エネルギー 38.2
20 地震 65.2 動物の分類 74.5 光学 51.8 天気 74.9 溶解度 54.1 電磁誘導 27.5
19 葉の構造 64.0 状態変化 67.8 公転と季節 53.0 作用・反作用 41.7 生態系 49.0 原子論 60.6

これをみてどう思われるだろうか?
明らかに、物理分野からの出題(光学・電磁誘導・電気回路・エネルギーなど)の正答率が低い。
また天体分野も苦手な生徒さんが多そうだ。
これも広く見れば物理の範囲に入る。

大問ごとの正答率も見てみよう。

年度 大問2
正答率
大問3
(地学)
正答率 大問4
(生物)
正答率 大問5
(化学)
正答率 大問6
(物理)
正答率 平均点
24 70.7 天体 29.8 植物・呼吸 61.2 化学・質量保存 47.9 力学・台車 35.0 51.4
23 65.9 地震 49.0 細胞分裂 71.5 気体・液性 40.9 電気 37.6 55.2
22 64.2 天気 54.1 生物 73.7 化学・質量保存 59.7 力学・電磁誘導 57.8 66.9
21 54.7 天体 52.1 食物連鎖 58.9 化学変化 54.6 電気 51.0 59.5
20 80.8 地層・岩石 59.8 呼吸・光合成 52.4 気体発生 55.2 力学・台車 37.3 61.8
19 65.0 天気 55.7 細胞分裂・血液 42.0 分解・原子論 46.3 電気 38.0 55.8
18   地震   光合成・呼吸   気体・質量保存   力学・台車  
 

平成18年度についてはデータを見つけることができなかった。
ここでも明らかに物理分野と天体分野の平均点が低い。
これだけならば、最後の大問に配される物理分野は時間が足りない、という仮説もありうるが、
大問1の結果と併せれば、とくに物理が苦手な生徒さんが多い、という仮説が妥当だろう。

なぜ、こうなってしまうのか。
普段、塾に来ている生徒さんが定期テストの勉強をしている様子や、
そのときに出される質問、やり取りの中で見えてくる理解度・理解内容を観察すると、
基本的な概念レベルでの理解がまったくできていないことが多いのに驚く。
おそらく、学校の授業での説明もあまり明確なものではないのだろう。
ただの項目暗記になってしまっているように思える。
ノートなどを見せてもらっても、学校の先生の説明からして不十分なように思える。

だが、これを学校の先生の個人的資質のみに責任を帰すのはちがうだろう。
「ゆとり教育」の中、高校の理科が必修でなくなり、物理を一度も学習せずに高校を卒業できてしまうようになった。
もちろん、大学の教職課程で中学理科の免許を取るには物理の履修は必須だ。
しかし、大学の一般教養の物理で出てくる運動方程式を解くことを中心にした物理と、
中学で習う物理分野の内容がどれほどつながったものとして捉えることができるだろうか?
たとえば、
「運動方程式F=maに対して、F=0ならばa=0になるのだから、
慣性の法則は運動方程式に含まれるものであって、不要なのではないか?」
という質問に、きちんと答えることができるか、というと多分むずかしい。

しかし、これに答えられないということは、中学範囲の「慣性の法則」についてきちんと説明できないことといっしょである。

科学の分野それぞれには、それを支える中心的概念や方法というものが必ずある。
その部分を基礎としてきちんと修めない限り、その先の計算をいくらやったところで、
その分野を理解したことにはならないのではないだろうか?

物理というのは、概念的な難しさを含む一方で、
こと試験問題を解くという面に限っていえば、
非常にテクニカルに処理できてしまう部分も多い分野でもある。
実際、予備校で物理を教える際にはそうしてしまう。
だが、それではまったく不十分であることを痛感した。


今回の記事を書くにあたって、とりあえずデータをざっとまとめてみたわけだが、
これだけでも色々と気づかされることが多かった。
こういうことに気づけたということだけでも、
ここ数年中学生を対象にした授業も受け持つようになったことの意味があっただろう。
理科離れということが言われているが、
物理教育をめぐる問題が、再帰的に問題の根を深くしているように思える。

自分としてはここ半年ぐらい、中学生・高校生向けの物理教材や、
もっと物理を掘り下げた文章を書きたいと思ってきたが、
この表を作ってみて、その意をさらに強くしている。

ブログの記事では、これに続いて具体的な理科の勉強方法などについても書いていきたい。
今日のところは、ここまで。
次回は、理科・社会を解くのに必要な、自分の頭での「情報処理」について書く予定。
それでは。

 

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